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顧客志向
土岡さん そうですよ。結局、お客様の心の中は二重構造で、大人の対応をしていただいてるだけなんですよね。だからそのことに対して、「3000人来てもらったから良かったっていうのは、これは全然違う話なんだ」という話をして回るんですよ。全国に。じゃあ、ホントにお客様に伝えたいことって、なんなの?品質を伝えたい。どうやって品質を伝えるの?自分たちがわかってないと、伝えられないですよね。で、その時に「変革の会」の人が(お客様から届いた)メールとか、もう持っていくんですよ。当然、名前出さないですけど。一番答えられないのが、「もう二度と裏切らないで下さいね」っていう一行に対して、メールが書けないんです。苦しくて書けないんです。私は裏切らないつもりでやっていますってことしか、書けないんです。何があるかわからない不安もあって、じゃ、全員がそういう気持ちになってやってるとは限らないんですよ。
工場の人にそれを提示するんですよ。「あなたならどう答えますか?」って。という議論をしていくんです。工場長たちは、「自分たちで考えます」。例えば、野田工場の社員ならこういうメッセージを作って、バッて掲示しましたね。「知らないことは罪、言わないことは罪、これが私たちのメッセージです」。今まで知ろうとしなかった、それから言わなかった。例えば、おかしいことがあるなと思っても、「まぁいいや。言うとまたカドが立つし」とか、「他の職場のことだから余計なこと言うのやめよう・・・俺のところもできてないしね」とか、仕事しないっていうのはですね、自分の役割さえ良ければいいって考えがどうしてもあるんですよね、長い期間やってると。
だから、工場でいくと、分業制でしょ。私はここでパックを検査する係とか、詰める係とかあって、その人たちが最後に言ったのが、工場で見学に通路からお客様が見られますよね、でも、その人たちの思いは、実は私たちお客様から見られてるけども、怒られたことも、褒められることもない、そういう自分に気が付いた。毎日来て、間違いのない商品を作ったら、さっさと帰ってたんだ。自分たちの商品がいったいどんなお客様に買われて、どんなお客様がどんな顔をして手に取られるのかも、全然知ろうとしなかった。で、営業マンと話をして、自主的に店頭に立つんです、その人たちが。そうすると、「あ、こうやって買っていただいているのか」「こういう笑顔なのか」「でも、こうやって迷っておられるのか」ってことがわかっていくと、もう1回同じ仕事してるんですけど、その人がお客様がわかるんで、今まで何千トン処理してましたとか、何千ケース作ってたっていう単位から、お客様の顔が少しわかるようになってきましたってなると、仕事が変わるんですよね。
で、どこの工場に行っても貼ってますよ。「次工程は、お客様」って書いてあるんです。私の次の工程はお客様って書いてあるんですけど、これ、スローガンはスローガンでしかなかったんです。だから今は、多少自分でね、そのことはちょっとこれ、不安だなあって思ったら、停止ボタンを押せるようになりましたっていう社員が増えてきたんですよね。あれ、ライン止めるってことは一大事ですから。ほかの人に全部迷惑かけて、全部やり直しなんですね。全部。だから、これをね、ボタンを押すっていう勇気はすごいらしいですよ。働いたことないですけど。でも今はボタン押します。どうして?「だってお客様がいるから」っていう答えが返ってくるようになったんです。全部じゃないですけどね。
---なんかこう、「なんで止めたのか」って言われた時にも雰囲気的に、「お客様」を出すと、自分としても、なんていうんでしょう、対応しやすいっていうか。やっぱり今みたいに止めるとやっぱり総スカン食らうわけですよね、感情的にほかの人から。その時に、今までだったら、ただそれで(邪魔者扱いされるだけで)終わっていたところを、「お客様」という概念を持ち出すことによって、ボタンを押した行為が認められる・・・そういう意味では「顧客志向」みたいなことが出てきてますね。
土岡さん そうですね。「顧客志向」という言葉、あんまり好きじゃないんですよ。あれ、嘘っぽいでしょ。
---(笑い) 僕は「お客様」っていう言葉、好きじゃないんですよね。なんとなく、それは。
土岡さん もちろん。あの、言葉の意味とか定義って、みんなが想像するのバラバラですからね。「お客様」・・・ま、余談の話・・・逸れますけどね、なぜ「お客様」って言うかっていうのが、あるわけですよね。我々今、社内で議論してるんですよ。定義をきちんとしようと。今、世の中の大半は・・・「お客様」と言ってますけど、「消費者」と言うと怒られるからです。「消費者」っていう言葉を使うと、あの、バカにしてるとか、軽視してるのかっていう、そういうイメージがあるんだそうですね。だからありますよ、NHKスペシャル出た時に、誰かが、私もそうですね・・・「お客さん」って言ったんですよ。そしたら「お客さん」は、お客様をバカにしている(と、視聴者から言われた)。私、そんな意味で全然使ってないんですよ。だから、そこにもやっぱり、企業として定義しなければいけないことがあるんですね。
あの、企業からするとみんなお客様ですよ。間違いなくみんなお客様です。でも企業にとって・・・我々雪印乳業は、この企業の中のコアコンピタンスとやっていくお客様っていうのは誰か。それは買って食べていただく、その目の前にいるお客様というふうになっていくんですよね。お客様にもいろいろあるんですけど。それはものすごく深くて難しい話ですよね。あの、マーケティング用語で言うと、「消費者」っていうことと、「生活者」っていうことと、「お客様」っていう、3つあるんですよね。それも全部違いますよね。
長くなりますけど、あと「レター・フロム・ファクトリー」っていう、こういうあの・・・全国のお客様を事件のあった大樹工場に招待するんです。これも中で賛否両論ありましたけど、でも大樹工場のメンバーは、お客様を迎える時にディスカッションするんですよね。お客様はやっぱり、事件のことをきちんと総括したい・・・心で総括ですね、顛末じゃなくて自分たちが総括しないとお客様を迎え入れられないよ、という話をしていくと、実は私は4、5回行ってるんですけど、5月に行った時に・・・帯広の近くに大樹町ってあるんですけど、十勝平野で田舎の十勝フェスティバルっていう(イベントがあって)、2万人ぐらい集まるんですよ。そこにこう、ブースを出さないかって言われた時に、断ってるんですよ。でも最終的に町から要請があって、一番下に小さな名前で出てるんです、雪印乳業って。で、全員社員がそこに対して一生懸命、手作りのチーズだとか、工夫して出していくんですよね。
で、終わって、若いヤツらと懇親会やった時に、泣いてるんですよ、みんな。なんでって言ったらね、「ようやく市民権が得られた」と。大樹工場にいるんで・・・結婚しているんだけど、「私は雪印乳業でまだチーズを作っていることを町の人に言っていない」と。町って、何千人ぐらいかしか、いないんですよ。ひた隠しにしてるんですよ、みんな。で、それがやっと表に出て、お客様が喜んでる顔を見て、少し自分は市民権を得ましたって、うるうるしてるんですよね。で、9月にこれをやって、終わって、顔色変わるんですよ、みんな。すごい自信持ってるんですよ。で、みんなにね、「すごい自信持ったね」って言ったら、「違います」って言われた。それはあの、来て下さったお客様から「これならもう、雪印大丈夫ね」とか「チーズ美味しかったね」「あなたたちの真摯な姿が良かったよ」っていう言葉で、自分が自信を持ってくるんだ。だから、工場の人って、さっき言ったようにお客様と接する回数が少ないんですね。そこに「言葉で自分たちが変わってきてます」って。・・・という、すごい言葉をもらったんですよ。
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