4憩 Shock! 新幹線がキタ!衝撃の食見聞記 -

海道幌市中央区/北区
海道町/雲町/万部町/館市/斗市- 第3
第1日 第2日
(もり)
(第3日 朝食)
N04-006(第75号) モンブラン(ベーカリー ベル) →
N04-007(第76号) 豆づくし(ベーカリー ベル) →
<モンブラン> ¥151(込)
栗餡が封入されているのだが、頂上にべっとりと塗りたくられたクリームの方に目も、舌も、反応してしまう。やや甘ったるい。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
<豆づくし(金時)> ¥151(込)
生地はしっとりと云うよりも軽やかさに主眼の感。ここの特徴かもしれない・・・生地は軽く、フィリング等は重く。
形状→★★★★★ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆

 出発前に少しばかり散策しようと外へ出てみて驚いた。昨日は雲に閉ざされていて見えなかった駒ケ岳が綺麗にその姿を現していたのである。裾野が広く迫力ある山体が、どんどんと目に突き刺さる。富士山の少しばかりに不自然とも思しき美麗さと比べれば、屈託のない自然優良児のようにも映る。


 今日の車窓は殊の外、素晴らしい。噴火湾の背後にそびえる駒ヶ岳は、淡麗辛口の如きだ。それもこれも雪化粧のお蔭であろう。正に化粧の威力である。1両編成の列車には10人程度の乗客が居て、途中駅での乗り降りもあり、素顔の北海道的にはそこそこ利用されている部類に入る。途中、本日最終営業日を迎えている鷲ノ巣を通ったが昼前だからか、人気は無かった。
長万部(おしゃまんべ)

 昨日の敵は今日の友、ではないが昨日、乗継具合が芳しくなく仕方なしに小一時間佇んでいた長万部。ここが今日の目的地である。海線と山線が分岐する道南の鉄路の一大ジャンクションは、何本もの線路を従える堂々たる構内設備を有している。森・八雲・長万部と云う道南に連なる3つの町に私は興味を抱いてきた。函館や大沼を出た旅人は、一様にこの区間を全速力で通過して、札幌方面へと向かう。森・八雲・長万部は殆ど、見向きもされない。この状況が馴染みの道北は士別・名寄・音威子府辺りに似ていると感じていたのだ。旭川を出た旅人は最果ての稚内・利尻礼文へと思いを馳せて、早く着いてくれとばかりに途中の町々への関心は寄せずにただ通り過ぎてゆく。
 海線と山線が交わる長万部はさながら、宗谷本線と天北線が分岐した音威子府である。鉄道交通の要衝でありながら3つの町の中では最も規模が小さく、また、駅弁蕎麦でも知られている。長万部は町制を敷いており、村の音威子府よりも大きな市街を有するが、さて、どのようなところなのだろう。楽しみである。

連絡通路には珍しく椅子があり、海外客向けの時刻乗り場案内もある。小さな町の大ターミナル駅である。

 ホームから改札へと向かう。矢鱈と通路が長く感じられる。だらだらとした坂道を登っているかのようだ。漸く、駅の規模からすればこぢんまりした改札口に辿り着く。が、その先には驚きの光景が続いていた。小さな口から零れ落ちそうなほどの人と活気に包まれているのだ。駅構内の巨大さに比べれば、何と小さな駅舎空間だろうか。そこにキヨスク、観光案内所、待合スペースが詰め込まれているのだった。今しがた通ってきた矢鱈と長い通路こそ、長万部駅を象徴する代物なのだ。あの矢鱈と長い通路を作らねばならぬくらいに、駅構内は広大で、駅舎空間は小さく狭いわけである。アンバランスな両者を縫い合わせたものが、あの矢鱈と長い通路なのだ。

 駅前風景もなかなか絶妙な線を行っている。だだっ広く閑散とした趣も漂うがその割に、人の姿は多い。皆、駅の利用者で土地の人間ではないように見受けられた。5千人台にまで減ってしまった長万部の人口だが、昭和40年には1万5千人台。八雲や森との差もさほど無かった。そこから急激に寂れてしまったのだが、これは国鉄の合理化と軌を一にしているように思われる。
 長万部に対して私が持っている印象は、「海の音威子府」だ。共に鉄道交通の要衝として発展と衰退をしてきたが、他にも共通点がある。長万部には東京理科大の全寮制キャンパスがあり、その関係で若者も多い・・・と云うよりも長万部の若者の大半が、ここの学生である。音威子府にもユニークな美術工芸高校があり、村の若者の大半がここの寮生だ。

 しかし、音威子府村の人口は今日1千人を割り込んでいる。昭和40年の時点では4千人弱だった。それ以前を見ても、4千人を少し超えた程度の規模である。林業、そして国鉄城下町として賑わった全盛期の音威子府の人口を、どことなくがらんとした雰囲気の現在の長万部が未だに上回っていることになる。表通りに出てみると、商店の数には雲泥の差があった。長万部は「栄えて」いる。その上、ここには北海道新幹線の駅も出来るのだ。まだまだ捨てたものではない。

 本町通と云う名の表通りを横断して一本、中の通りへと入ると、飲食店などが散らばっている一角に遭遇した。開いていない店も多いが、ちょっとした歓楽街になっている。好い塩梅に古びた建物が、虫食い気味に林立している最中にえらく現代的な佇まいの建造物を発見する。目的地だ。長万部でのランチタイムはこの店を措いて他にはなかろう・・・そのように思えたレストランである。

N04-017(第89号) GRASSライス@グラス →
<グラス特製 GRASSライス> ¥1,150(込)
目に入ってきた瞬間に、「うぉ、これは美味しいだろうな」と思わせる。全てが艶やか。ヴィヴィッド。躍動的。この豪快さはキャンプめしのそれだが、しかし、巧みなドレスアップによって高級感をも醸すものとなっている。
形状→★★★★★ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★★

 食後、来た道を戻る形で本町通を反対方向へと進む。駅前を通り過ぎてすぐに現れるのが沿線では森の「いかめし」と双璧を成す「かにめし」を調整する「かなや」の店舗である。隣は食堂となっていて、弁当のように冷めていない「かにめし」を食すことが出来るわけだ。本町通には、食堂・服屋・靴屋・本屋・信金等々立ち並んで、吹き渡る海風がシャッターやベニヤ板で覆われた閉鎖店舗の寂しさを余計に増すことにはなるけれども、一通り街の機能が稼働しているように感じられた。しかし人の気配は、駅前から離れると極端に消えて無くなる。

 長万部には戦後行われたガス採掘の副産物として開発された温泉が、駅の反対側にある。本町通から入る細い路地の先には、これまた細長い跨線橋があり、広大な構内を横切ってやっとこさ温泉街に到達する。アプローチ方法からして如何にもマイナーな匂いが漂ってくるが、実際知名度はいま一つ。内地の人間は誰も知らないのではなかろうか。私も地図を買って読み込む中で漸く存在を知ったものだ。お隣の二股にあるラジウム温泉の方がユニークな名前と秘境的立地性故に、余程有名であろう。平地の、夜の華やぎの無い鄙びた温泉街と云うのも、何か微妙なものがある。


 本町通を渡って温泉街へと通じる路地とは反対方向へ向かう路地を進むと郵便局、そして巨大な町役場が登場する。衰退している人口5千人台の町の役場とはとても思えない、銀ぴかな佇まいは、なかなか強烈な印象を残す。ここに新幹線の駅が設けられれば、更にもう一つ、不釣合いな大規模構造物が、海辺の鄙びた小さな町に誕生することになる。

 役所と建設業が最大の産業となっているところは少なくないが、本来、何らかの事業を行う人間をサポートする役回りであるところを、その存在自体が目的化してしまっていることに、地方の、主客転倒した容易ならざる社会構造を見る。役所は需要があるから置かれるものから、需要を生む為に置かれるものへと変貌した。建設業にしても同じことである。それらの要素を取り除いてみれば極端な話、長万部は、東京理科大と「かにめし」で保たれている町となる。その礎となったのは国鉄であり、加えて高速道路が延びてきて、近い将来には新幹線がやってくる。

 のんびりと長万部市街を巡っている体だったが、ここからはやることが山積している。長万部をこの後の食卓へと持ち帰るのだ。先ず、「グラス」を再訪して長万部らしさ溢れるここの名物料理を受け取った。続いて何度も通り過ぎてきた駅横の蕎麦屋「合田」に立ち寄り、「かにめし」に次ぐ名物となっているここの蕎麦を受け取った。〆は真打ちの登場である。「かにめし」だ。駅弁ではあるが、森とは異なり、キヨスクに「かにめし」が置かれているわけではない。しかし注文すると、キヨスクのおばちゃんが「かなや」へ電話をしてくれる。そして「かなや」の人がキヨスクまで届けに来てくれるのである。

 こうして、長万部でやるべきことは全て済ませた。しかし帰りの列車までは未だ時間がある。駅の雰囲気に浸るのも悪くないが、折角の長万部ではないか・・・街へ繰り出そう。立派な本屋が印象に残っていた。それから洋菓子店と思しき店もあった。

 街の本屋と云うと、初老の夫婦が本の山に埋もれて、或いは逆に乏しい品揃えを如何に見栄えよく書棚に並べようかと苦闘しつつ、切り盛りしているような想像をしがちだったが、長万部の街の本屋は、奥行きのある実に立派な店で文化の薫り漂う、素朴ながらもエレガントな雰囲気に包まれていた。従業員が幾人も居り、子供向けのものも充実している。本屋ではなく「書店」と呼びたくなるような、長万部の人々の知育の根幹を担っている格式を大いに感じさせる場所であった。

N04-018(第90号) レアチーズクリーム(アマンドにしだ) →

 寧ろ菓子店の方が「街の本屋」の雰囲気だった。洋菓子店かと思ったが和洋折衷、ショウケースの中身は空欄の目立つ、これぞ田舎の鄙びた店と云う貫禄があった。それでも店を開けているのであり、こんなところにも街の底力と云うものは表現されている。

 長万部からの去り際に、概ね晴天だった空から俄かに雪が降りつけ始めた。変わりやすい天候はしかし、一見、何も変わらないようで常に変化し続けている街の実情のようにも映った。街が変わりやすいのなら、その街に支えられている恰好の駅や鉄路の内情は、もっと変わりやすい。

 しかし路線バスよりも外からの訪問者が使いやすい鉄道の方が、その鋭利な変化をより柔らかなものとする可能性を秘めている。また一つ一つの出来事をお祭り騒ぎにする起爆剤としての作用も秘めている。朝は静かだった鷲ノ巣駅だが賑やかな気配が漂っている。今日も件の取材班が詰めていて、駅の最後の瞬間に立ち会わんとしているのだった。バス停が無くなる場合にこのような扱いを受けるだろうか。駅、そして鉄路と云うものは、額に汗かき維持する価値のあるものである。後はこれをどのように使うか、それは各人の頭と心と金次第となろう。
(もり)

 新幹線開業まであと1日。過熱するメディア報道が、歴史的瞬間を形作る。青函トンネル内減速運転の影響で、東京まで4時間の大台を切らず、また、新幹線駅から函館中心部は遠く、札幌までの延伸は更に遥か遠く課題山積、大きな変化が起きてくるのはまだまだ先のことだろうが、しかし東北は近づく。明日より史上初めて札幌よりも仙台の方が、函館からは近くなるのだ。そして当面の間、函館及び道南は、新幹線終点駅の恩恵を味わうことになる。東京・東北・札幌の波間で函館は、未来を賭けて彷徨う。
(第3日 夕食)
N04-019(第91号) 長万部産特大ホタテのスペシャルピザ(グラス) →
N04-020(第92号) 特製もりそば(そばの合田) →
<長万部産特大ホタテのスペシャルピザ> ¥980(込)
「かにめし」で有名な長万部ではあるが、原料となる蟹は、ほぼ地元産ではないようである。その点、こちらの方が長万部名物として相応しい趣がしてくる。何と云ってもホタテの量は相当なもので、非常にがむしゃらさを覚える。一切妥協の無い原材料に頼るさまは北海道らしい。
形状→★★★★☆ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★★
<特製もりそば> ¥650(込)
ポイントは、缶詰みかん。これがあるから、単に街の蕎麦屋が持ち帰り用に包んだのではない…ああ、駅弁なのだなと云う感覚がとても湧いてくるのだ。その観点からも、「酢豚のパイナップル」以上に重要な役どころ。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
→第3日旅程→
森 10:17 →函館本線 普通(821D)→ 長万部 11:33  
長万部 16:09 →函館本線 普通(2846D)→ 森 17:27
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as of 2016.03 / uploaded 2017.1125 by 山田系太楼どつとこむ

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