4憩 Shock! 新幹線がキタ!衝撃の食見聞記 -

海道幌市中央区/北区
海道町/雲町/万部町/館市/斗市- 第2
第1日
札幌(さっぽろ)
(第2日 朝食)
N04-012(第81号) ピーナツバターサンド(れもんベーカリー) →
N04-013(第82号) ラムレーズン・杏子のクリームチーズサンド(れもんベーカリー) →
N04-014(第83号) 甘夏サンド(れもんベーカリー) →
ピーナツバターサンド ¥196(込)
ピーナツバターと云うよりも、ピーナツクリームと云う表現の方がしっくりくるマイルドな風味と、しゅぱしゅぱとした、滑らかな舌触りが発揮されたものを使用している。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
ラムレーズン・杏子のクリームチーズサンド ¥299(込)
ラムレーズンだけであれば寂しいところを、杏子が何よりも食感を面白くしてくれている。風味面でも杏子は、ややもすると焼けたような感じになるラムレーズンのハルマッタンを、湿潤感覚でマイルドに舐めまわしてくれるのだ。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
甘夏サンド ¥289(込)
れもんベーカリーと云ったら、この甘夏サンドの印象が強い。甘夏がグリグリっとしていて、非常にヴィヴィッド。存在感に満ち溢れている。
形状→★★★★☆ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★★

 冷たい風が颯爽と吹き抜ける雨上がりの眩しい空。日の光が燃え上がるガラスとアスファルトの中を、未だ少し眠い目をこすりながら歩き進む。札幌の街角は、何気ない風景を詩的に変換させてくれる魔法の小箱を携えている。北の大都会の魅力は、単に大量の人口を抱えているだけで生まれる類のものではない。


 今日は札幌から道南へと移動する日である。札幌でのんびり過ごすわけでもなく、それなりに出発時間が迫っている。けれども駅とは正反対の大通へと向かったのには、ただならぬ理由があったからだ。

 移動中に昼食を摂ることになろう本日の旅程。駅弁を筆頭に調達方法には事欠かない。しかし大通の地下にある「さえら」の特製サンドウィッチを食べずして札幌を去るわけには行かぬ、先には行けぬと思った。その決意を失望へと変えることなく、無事現物を手に入れることが出来てホッとした。それと云うのも昨日訪ねた折、どうも気配がおかしいと思いつつ覘いたところ、案の定閉まっていたのだ。このタイミングで手に入れられなければ、あの特製サンドウィッチは諦めるほかなかった。大通から駅へ・・・雨上がりの街角が余計に晴れやかに映る。

 遺憾ながらトラブルが多く、中央線並みに信用の持てないJR北海道だが、列車は快調に滑り出した。札幌から道南方面への移動は今日、千歳・室蘭線経由が一般的である。特急は臨時列車を除き、全てこちらでの運転だ。道央自動車道もこのルートである。しかし特急ではなく普通列車にのんびりと揺られて旅したい・・・そう思った時分、普段使われない函館本線の通称「山線」区間の存在が俄然大きなものとなる。折角普通列車に乗るのなら、小樽やニセコを通って長万部まで到達する方が、歴史に裏打ちされる物語性は豊かなものとなろう。鉄道開業時からのメインルートはこちらなのだから。
 実際のところ、札幌と小樽の間の石狩湾の白と青と岩の彫刻の風景は道内屈指のスケールで、早速心打たれる代物となり、小樽駅の根っからの古さと観光化の結果生まれた新しい古さが交錯する様子は化粧と云うものを考えさせられる愉しいものがあった。

 いつの間に雪が降りつけてくるようになった小樽駅のホームに、ゆっくりと長万部行きの列車が入ってくる。小樽までは電化並びに複線化されて札幌都市圏輸送の範囲内。観光客の利用も大層多い。だがここから先は、いよいよ山線区間突入である。石狩湾から離れて、山間部を縫うようにちまちまと進むのだ。嘗ての幹線もすっかり今は落ちぶれて、新幹線が札幌まで延びた暁には、廃線になる可能性もチラつく鄙びたローカル線・・・それが今日の山線の実態である。

 だが2両編成の「山線」長万部行き列車は次第に込みあってきた。確かに無理もない。この次は倶知安までなら1時間半後、その先の長万部までとなると2時間半後である。それでも空く列車はとことん空くわけだから、北海道のローカル線の中でも利用客は多い部類に入るだろう。札幌11時44分発の快速利用でもこの列車には間に合うが、座るのは困難だろうと見越して一本前11時14分発の快速に乗ってきたのは、正解であった。代わりにホームでは予想以上に凍えたけれども。しかしこんなに用心したと云うのに、それでも、進行方向と同じ向きの一人席には座れなかった。

 小樽から大勢乗ってきた高校生も倶知安に着く頃にはすっかり姿を消して、そろそろ「さえら」のサンドウィッチタイムにしようかと思案を巡らせる。が、倶知安からも高校生が少なからず乗り込んできて、結局、混雑具合にはさほどの違いが現れなかった。

 ところがニセコで大量の降車があり、続いて蘭越でもまとまった人数の降車が発生して、車内の密度は遂に和らいだ状態となった。ここに至り漸くボックス席を丸ごと占有することが出来た私は、空腹の度合いもかなり進んでいたから、サンドウィッチタイムに突入することを躊躇なく決めた。

N04-015(第84号) たらばがに&フルーツ(さえら) →

たらばがに&フルーツ ¥800(込)
「さえら」のサンドウィッチと云えば、その筆頭に来るのは、たらばである。北海道らしさと云う観点からも、フィリングとして申し分ない。そしてフルーツサンドウィッチ好きとしては、それが存在するならばフルーツサンドをチョイスするほかないのだ。しかしこのザクザクとヴォリューム豊かに、挟まれたと云うよりも詰め込まれた、たらばの存在感が素晴らしい。
形状→★★★★☆ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★☆

 函館から札幌を経て旭川を結ぶ函館本線は、北海道の鉄路にとってヒグマのような存在である。嘗ては「鉄路」と限定などせずに「北海道にとってヒグマのような存在である」と云い切れたであろう。今はしかし、陸上交通の主役は自動車だ。加えて先に述べたように、函館-札幌間に関しては、千歳・室蘭線経由がメインルートとなり、ダイヤの上で「山線」は、すっかりヨレヨレのローカル線へと落ちぶれてしまった。だがその姿は、実に堂々とした風格に包まれたものだ。長大な駅構内には、往時の栄光が宿っている。ダイヤの改変は容易でも、施設・設備は長い間、昔の時代そのままに朽ちるように残るものだ。やはりここも函館本線なのである。山線もヒグマだ。深い冬の眠りの谷に落ち込んだ雰囲気ではあるが。
 北海道新幹線は山線のルートに沿って建設される。新幹線は嘗ての蒸気機関車の名所に現れる未来の黒船、蒸気船だ。その時分に山線界隈は大いに活況を呈することになろう。今でもニセコだけは景気が良いから、眠ってなど居られまい。鉄路のメインルートの座を千歳・室蘭線から70年ぶりに取り戻すのだ。けれどもその瞬間に並行在来線となる山線自体は、引き取り手も現れないまま、終わりの時を迎えることになるのだろう。

 そんな運命のことも知らず、列車は柔らかな日差しの中をタタンタタンと進んでゆく。黒松内を過ぎ、土地の人の姿は車内にもはや無い。ブナの北限黒松内は、この列車に限っては地元客の南限となった恰好だ。しかし旅人の数は無視出来ぬものがある。これもまた「本線」の貫録だろう。メインルートからは外れて久しいが、山線はその命脈を細く、長く、保っている。まだ当分の間は、それが尽きることはない。

 終点の長万部は、鉄道の町である。函館本線山線区間、これに対して海線と称される室蘭本線、そして今なお幹線として活況を呈する函館方面への函館本線がこの一点で交わる。長万部駅構内は慌ただしく通過する特急や貨物列車に加えて、これら3方向へのローカル普通列車が昼寝中で、なかなか見所のある雰囲気だ。長万部駅を越えて運行される普通列車は存在しない。必ずここで乗り換えることになる。しかし特急優先ダイヤの為に普通列車間の接続は必ずしもスムーズではない。ローカルは何事もゆっくりと進む。昼寝は贅沢なひとときなのだよと心に刻まねばならない。構内に屯するディーゼルカーを愛でることは、ローカルの中心に宿るスロウな時を感じ取ることでもある。

 40分後、函館行きの列車がむくみながら入ってきた。待ち焦がれた旅人たちが、いそいそと乗り込む。そのコントラストは母なる川とそこに浮かぶ舟のように感じられた。時はゆっくりと流れ、やがて目的地には確実に着く。時代状況は逆行しても時の流れそのものは何ら変わらない。ダイヤ改正を明後日に控えた今日と云う日も、遠くで形作られてやってきた。

 風雪に耐えて未来へと生き残る駅があれば、明後日に別れを迎える駅もある。その一つ、八雲町の鷲ノ巣駅で在京メディアの取材班に遭遇した。俄かに車内の雰囲気がそわそわと浮足立ち、ちょっとした歓声に包まれる。思いがけずも今、この古めかしく冴えない列車に乗っている旅人と地元の高校生たちは、時代の先端を生きる者の端くれとして存在していることを実感した、その歓びのようにも聞こえる。明後日のダイヤ改正を機に、北海道から8つの駅が消える。内、5駅は道東で2駅は道央だ。道南で唯一の廃駅となる鷲ノ巣は、北海道新幹線の新函館北斗駅からもそう遠くない上に、この辺りで一番大きな町となる八雲の中心市街からは目と鼻の先だ。取材をするには恰好の標的となる。新幹線見物に際し、混雑しているであろう函館界隈を避けて宿泊しようとするなら、八雲と森が候補に上る。彼らは八雲を選んだのだろうか。私は、森を選んだ。森の方が函館に近い。そしてあの有名な駅弁がある。

 長万部から森までの間は噴火湾沿いに進むから、軒先を突き合わせるように建て込んでいる漁村風景をふんだんに眺めることとなる。しかし八雲を中心に牧場も多く存在しており、海と山のバランスが取られている産業構成となっているように見える。
(もり)

 森は海の母である。ふと、脳裏にこの言葉が浮かんだ。確かに、豊かな森は山ばかりか豊かな海をも生み出すものだ。漁業者が植林に従事する姿は、もはや珍しいものでもないだろう。この森駅はその名に似合わず恐らく、北海道の特急が停まるような大きな駅では最も、海に近い駅となるだろう。線路の向こうは海、そんな立地状況である。そして正面には雄大な山が、その雰囲気だけは存分に伝えつつも、雲に隠れている。森は山と海を育む。そんな海と山に育まれて、森は存在している。

 北海道では「町」のことをチョウと読むが、森町だけは唯一、マチと読む。波打ち際に佇みながら、山を連想させる「森」を名乗り、ホームには山を模したオブジェがある。森は何かとユニークなところのようだ。そのユニークさの本家本元が駅弁大会で不動の人気トップを誇る、安くて美味い怪物駅弁「いかめし」の存在にある・・・そのように私は踏んでいた。ところが「駅弁いかめし」の森駅には他にも、異色のグルメスポットが存在していたのだ。

 駅の中に何と宅配ピザ屋が入っていたのである。「いかめし」以外には駅弁が無いから、無論、何度でも「いかめし」を堪能する手もあるのだが、他の食事をどうするか多少迷っていたところだったのだ。「ピザ デン・フォー」は、北海道ローカルの宅配ピザチェーンで地図上では何度も遭遇していた。実際に店の前を通り過ぎたこともあるだろう。が、こうしてまじまじと対面するのは、初めてのことだ。

森のユニークさと云えばこんな光景もあった。今しがた乗っていた函館行き普通列車はこの森駅で函館行き特急と待ち合わせをする。
ところがどうしたことか特急は、普通列車の真横を完全に通り過ぎて、屋根の無いホーム先端まで進んだのである。
延々と歩かされる下車客…特に普通列車への乗換客の焦り具合が印象に残った。

 流石に函館に近い森だけに駅構内は新幹線一色で彩られていて、とても華やかな雰囲気に包まれている。その光景を強力に後押しするのが、キヨスクが営業中であると云う事実である。やはり名物駅弁を取り扱っていることが効いているのだろうか。「いかめし」はキヨスクの他、駅前の柴田商店でも販売されている。駅弁調製元が駅前で商店等を営んでいる例はよくある光景だから、ここが「いかめし」の調製元なのかと云えば、そうではない。「いかめし」は阿部商店によるものである。だからここは純粋に、一般的な駅前商店だったのだ。キヨスクがあって駅前商店もある。全てをコンビニに持って行かれる今の時代、これだけで凄いことだ。
 私は駅前のホテルに宿泊することにしていたのだが手持ちの地図では、このホテルにはコンビニが併設されていることになっていた。けれども実際に行ってみると、その姿はどこにも無い。思わず二度見してしまったが確かに存在しなかった。キヨスクと駅前商店が残り、コンビニが潰れる・・・森と云うところは実にユニークな場所である。それもこれも「いかめし」と云う怪物の存在が功を奏したのだろうか。

駅前風景。左手に柴田商店。正面に宿泊先のルーストンホテル。ホテル1階右側がセイコーマート跡と思われる。
通常私はセコマを利用するようにしているが、ホテルから100bも歩けばセブンイレブンがあり、特に拘らなければ不自由することはない。

 さてキヨスクには、いかめし関連商品や、これぞキヨスクの面目躍如とでも云うべき森町唯一となる「白い恋人」の取扱もあって、甚だ賑わった雰囲気である。そして中央には主役である「いかめし」が陳列されているのだが、これが如何にもレプリカ臭い。夜6時前と云う時間に未だ「いかめし」は残っているだろうか。大都市ならいざ知らず、地方中小都市では3時-4時辺りで駅弁が売切れてしまっていることはザラにある。しかも森の駅弁は「いかめし」一種類だけだから、著名なものは売切れているが、余り人気の無い駅弁が一つ二つ売れ残っている幸運に見舞われることもない。率直に云って今日「いかめし」との対面を果たすのは難しいだろうと踏んでいた。

 駅正面と云う絶好のロケーションのホテルは、コンビニこそ潰れたが比較的新しく、地方小都市の宿としては十分過ぎる、気持ちの良いものだった。駅横にビルが建ち、予備校が入居している光景はさながら大都市郊外。最寄りの都会となる函館から特急で40分掛かる人口1万人台の町とは思えないものだ。このことだけでも森は駅、そして中心市街地が存外強い町であることが伝わってくる。現に森の人口規模は隣町の八雲よりも一回り小さいが、駅の利用者は逆に多い。八雲は自町のみならず檜山方面への玄関口にもなっているにも関わらず、である。

 仕方なしに訪ねたセブンイレブンのレジ前には面白い光景が広がっていた。年を追うごとに函館がイカの町になっていることは知っていたが、セブンイレブンに大量のいかめしが陳列しているのだ。流石は「いかめしの森」である。ここに置かれているのは阿部商店のものではない。従来の「いかめし」のイメージからはかけ離れた塩味の白いいかめしを一押しとしているところなど、なかなか野心的だ。

いかめしはキヨスクに残っていた!
(第2日夕食)
N04-016(第85号) いかめし@阿部商店(森駅)→
<いかめし> ¥650(込)
姿かたちも、原材料も、何もかもがシンプル。余計なものが加わっていない。ほやほやぶっかぶかに、ふやけた容器の中には、主がしっとりと佇んでいた。豊かな野趣性と品のある艶やかさが同居するユニークな世界がそこには広がる。
形状→★★★★★ 風味→★★★★★ 総合→★★★★★
「いかめし」は外観以上にヴォリューム豊かな駅弁だが、それでもかなり小ぶりである。
それ故に根室から携えてきた以下のパンの出番となった。
N03-039(第86号) 金時豆パン@タイエー→
金時豆パン ¥120(込)

ずんぐりとしていて豆もふくよかに、
そして勢いよく散らばっている。
豆の存在感はなかなかのものなのだが。

形状→★★★★☆
風味→★★★☆☆
総合→★★★☆☆
N03-040(第87号) 香ばしいロールパン@セイコーマート→
香ばしいロールパン ¥120(込)

嘘を云ってはいない。こんなに香ばしいロールパンは初めてだ。
香ばしすぎて非常に不自然な感じがしてくる。
それほどまでの強烈さなのである。

形状→★★★★☆
風味→★★★☆☆
総合→★★★★☆
N03-041(第88号) まめホイップ@タイエー→
まめホイップ ¥138(込)

大胆にも豆パンの腹を切り裂いてホイップをドテッと挿入。
そのスタイル、シンプルにして意外性も持つ。
クリームが生地との間を取り持って、世界を滑らかに変えるから、
浮き立つ豆の妖艶さはいよいよ増してくるのだ。

形状→★★★★☆
風味→★★★★☆
総合→★★★★☆

 北海道のテレビニュースは面白い。これほどまで万華鏡の如き地方ニュースは無い。東京-新函館北斗間の所要時間が4時間を切らずに苦戦し、北関東に活路を見出す新幹線と道南の姿が映れば、新工場を完成させ、更に海外へと活路を見出す道北のホタテ長者の姿が映り、道央の最高峰の学び舎からはいざ、劇空間社会へと活路を見出す若人の姿が映る・・・そんな北海道の、森町の夜に私は居る。一昨日まで道東に居て、今日の昼前まで道央に居て、今宵道南に居る。一つの北海道が育まれる。
 北海道は一艘の舟となって同じ時の川を進んでいる。基軸を浮き上がらせるならば、そのことをはっきりと認識する。北海道は一つ。それが、分割された他の都府県には無い、北海道の特性となる。
→第2日旅程→
札幌 11:14 →函館本線 快速エアポート105号(3869M)→ 小樽 11:46  
小樽 12:20 →函館本線 普通(2940D)→ 長万部 15:15
長万部 16:09 →函館本線 普通(2846D)→ 森 17:27
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as of 2016.03 / uploaded 2017.1118 by 山田系太楼どつとこむ

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