7憩 ート371 -東海道鰻遊記-

岡県津市/川市- 第4
(第1日) (第2日) (第3日)
掛川(かけがわ)
(第4日朝食)
N07-012(第202号) UFOパン(フランドル松屋) →  N07-013(第203号) 夕張りメロン(フランドル松屋) →
<UFOパン> ¥85(込)
第一にして最大印象、柔らかい。ふにゃんとした感触。多少の弾力性。優しい。軽やか。形状は甘色的だが、或いは帽子パンと云うものもあるが、余り甘くはなく、口触りもボソボソっとはしていない。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
<夕張りメロン> ¥138(込)
普通のメロンパンよりも高い「夕張り」メロンのパン。実際のところは送り仮名が不要であるわけだが、何か夕張がとてつもなく欲張りに思えてくる。そう、確かに夕張メロンは贅沢だ。外観は静岡特産のマスクメロン色をしているが、中身のクリームは夕張メロン色なのであった。ああ、これは確かにべっとりと甘く迫ってくる夕張メロン的風味だ。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
 「スローライフ」をアピールする看板の立つ掛川駅前だが、すぐ後ろに控える駅舎と云うのが、新幹線停車駅では珍しい木造、それも板張り感満載と来ている。しかしこの掛川駅北口の木造駅舎を眺めながら、私は何かとてつもない違和感に襲われていた。
 その原因はすぐには分からなかったが、先ず第一に、余りにもシンプルに板張り感が強い点が挙げられる。新幹線も停まるような市を代表する駅であるなら、木造とは云え、ストレートに板の質感が伝わってくる駅舎はそうそうない。例えば門司港駅も木造駅舎だが、遠目からは木造感覚と云うものは殆ど湧いてこないものだ。それから暫くして遂に、違和感の正体の核心について確信を持つに至った。板の向きが縦方向なのである。通常、他の木造駅舎にしても、板の向きが横であり、積み上げるような形を思わせる外観を備えている。ところがこの木造駅舎は板の向きが縦方向なのだ。非常にすらっとしている。それが何ともバランスの悪いような印象を与えていたことに気が付いた。
 木造駅舎は1940年建造のもので今日的に見れば小ぶりである。在来線の線路が高架化されておらず、また、駅舎も橋上化されていないため、木造駅舎から南口へは直接行くことが出来ない。駅舎の脇にある地下通路を使って回ることになる。それにしても相当に思い入れのある駅舎のようで、保存へ向けた活動が行政主導で行われていた。
 南口からは新幹線乗り場に直接通じている。南口駅舎のデザインは、高架駅のそれである。コンコースには、ちょっとした飲食店や土産物店も並んで、新幹線も発着する普通の駅の雰囲気に包まれていた。これが2010年代現在の、今時分の掛川駅の姿であると思った。
 如何にも地方都市にやって来たのだなと云うムードには、やはり余りならない。東京近郊感が湧いてくる。沼津の方がよほど地方都市にやってきた感覚に襲われたものだ。しかしそこは純然たる地方都市である。行政が幾ら「スローライフ」だの「温暖化防止」だのを叫んだところで市民意識はなかなかついてこない。コミュニティバスの本数は恐ろしく少なかった。人里離れた山間部でもなし、地方都市だろうが「都市」には違いない。車中毒は深刻である。
 南口界隈は1988年の新幹線駅開設を機に開発されたと聞くが、住宅地の合間合間に茶畑が広がる光景は静岡ならではのものを感じさせる。そんな田舎から都市の光景になる途中の坂道に、資生堂の博覧施設がある。
 すぐ脇を新幹線の線路が通る。掛川には資生堂の工場があるのだ。その敷地と連続する形で、「企業資料館」と「アートハウス」が設けられている。企業資料館には、昔の資生堂商品やその広告が展示されている。アートハウスには、色々な現代美術ものが展示されている。
 枯れ色に敷き詰められた芝生、うねる地形を活かした恰好の敷地。まるで古墳のようだと思った。
 資生堂の敷地を出て新幹線の下を潜り、東海道本線を踏切で渡って暫く歩くと、掛川市役所に辿り着く。この市役所もまた、資生堂に負けない位のデザイン性に富んだ建物である。
 建物内部は階段状の構造となっていて、上階へ向かうにつれて床面積は小さくなる。つまりその分、ダイナミックな吹き抜け構造が達成されていて、下からの解放感はかなりのものだ。余り役所と云う感覚が湧いてこない。最近ありがちな図書館のような印象を抱いた。そしてここでも掛川駅木造駅舎保存運動が展開されていた。なるほど、掛川の建物熱のいわば原点なのだろう。木造駅舎があり、資生堂施設群があり、このデザイン性豊かな市役所庁舎もある。
 この市役所も、資生堂施設群同様に、地形を活かした設置の仕方が為されている。問題は、この素晴らしい庁舎を建造するために、市役所が郊外に移転してしまった点にあろう。行政自らが郊外化を促進してしまったのである。天竜浜名湖鉄道に乗れば掛川から最寄駅まで僅かに一駅、本数も1時間に1本は確保されている。貧弱なバス網に比べてアクセスは抜群に良い。公共交通機関利用に対して配慮は為されている。しかしそれは飽くまでも配慮であって、中心市街地に役所が存在すれば、その手の配慮も要らなかったわけだ。志それ自体は結構だが、云っていることとやっていることの「ちぐはぐ」感がどうにも拭えない思いがした。
 市役所の裏手には「生物循環パビリオン」と云う意識の高そうな名前の施設がある。看板は若干古びた趣だったが、中は看板ほどの古さを感じさせない面白い施設であった。要は、し尿処理施設なのだが、ゴミ焼却場をリサイクル文化センターと云ってみたり(町田)、下水処理場を水再生プラザと云ってみたり(札幌)、学習スペースを設置するなどして恰好よく呼んでいるものである。
 しかしどんなに立派に展示したところで、一般市民は利便性に流れて郊外型生活を満喫する。元々やる気がない上に自分一人がやったところで…と云う無力感に包まれるものである。そこで行政と云うものは「経済原理」に流されがちな世情に規制を掛けて、滅びの広い門へと向かわぬために、存在していると云わねばなるまい。個人で戦うには限界がある。それを乗り越えるための組織、集団ではなかったか。
 こんなに温もりを感じない、詰まらないところも初めてだなと思いながら、掛川駅前へと私は戻った。この町には要所要所に見所はある。そしてそれらはなかなか個性的で面白くもある。しかし全体として無味乾燥でのっぺらぼう、情感に響いてこない。面白みが何もない。プランター植物のように各施設が孤立的に存在していて、意識に馴染んでいないのだ。

(第4日昼食)
N07-018(第208号) うなぎ弁当(赤ワイン仕込)@掛川駅(自笑亭) →
<うなぎ弁当(赤ワイン仕込)> ¥1,500(込)
柔らかさに徹底的に拘った鰻の蒲焼きであるだけに、流石に柔らかい。ふわふわっと云う趣よりも、やわやわっとしている。その分、しっかりとした地力のある風味が鰻からは余り湧いてこない。が、そこで赤ワインの出番となっているのもまた事実である。赤ワインの風味が柔らかく鰻を包み込むことで芳醇な趣は増しているからだ。沼津・桃中軒のうなぎ弁当と好対照もいいところである。
形状→★★★★☆ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★☆
(第4日夕食)
N07-019(第209号) 喧嘩凧@掛川駅(自笑亭) →
<喧嘩凧> ¥1,000(込)
本品は御飯は御飯らしく、おかずはおかずらしくメリハリをつけて詰められていてなかなか良い。肉団子と鶏のカレー煮は見た目以上に食べさせる。鶏唐揚げと焼き鯖でヴォリューム的に及第点に到達。鰻の佃煮は心憎い演出。弁当箱の中でおかずが各々、競演しているさまは、さながら喧嘩凧の光景である。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
→第4日旅程→
終日掛川市内滞在  
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as of 2012.01 / uploaded 2018.0315 by 山田系太楼どつとこむ

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