7憩 ート371 -東海道鰻遊記-

岡県津市/川市- 第3
(第1日) (第2日)
沼津(ぬまづ)

(第2日朝食)
N07-010(第200号) 朝食ヴァイキング@沼津グランドホテル →
 今朝もパンのほっこりとした、しかし時に強烈な香りで目が覚めた。昨日は参戦すること叶わなかった焼き立てパンのホテル朝食に、今日はありつけた。
 駅に向かうと改札前に「あさぎり号」運休の報が記されているではないか。小田急線内でダイヤ乱れが起きると、真っ先に切られるのが「あさぎり」や千代田線直通電車と云った他社乗り入れ列車だ。千代田線乗り入れ停止なら、代々木上原で乗り換えればそれで済む。別ルートも複数ある。しかし特急の運休は堪える。長時間、通勤車両に揺られることになりかねない。私自身一昨日は、どうか何も起こらないでくれ、通常運行してくれと祈念していたものだ。マァこれでは高速バスの方が確実…と云うことになってしまう。
 従来、沼津は首都圏の影響が強い土地柄だった。昔は東海道本線の東京発下り列車は熱海止まりよりも沼津行きの方が多かったものである。しかし今、日中に沼津までやってくる列車は無い。そして「あさぎり」の乗り入れも廃止される。薄れる首都圏に代わって存在感を増しているのが、近くの静岡市である。普通列車で1時間弱の距離。沼津では衰退した駅前型商業地が静岡では未だ旺盛だ。この辺りの事情は、郡山とも似ているように感じる。郡山も首都圏寄りから仙台寄りになってきている。但し衰退傾向の沼津に対して、郡山は発展してきた。やはり新幹線が沼津駅に乗り入れずに、隣の三島に乗り入れている点が大きい。したがって三島と沼津、それに周辺の長泉やら清水と云った町を併せると、一大流通拠点・郡山になる。
(はら)
 沼津から東海道を二駅下ると原へと至る。江戸の頃は上りだったわけだが今は、「下り」の方がしっくりくる。これも鉄道の効用だろう。もう新幹線が開業してから半世紀が経つと云うのに、今も東海道本線には大幹線の貫録がある。駅構内が広い。線路も多い。その雄大さに花を添えるのが車窓である。特に富士山。今日は素晴らしい天気に恵まれた。東海道ド真ん中の雰囲気満天である。
 ここ原は東海道13番目の宿場である。そう、沼津にも「原宿」がある。天下の東海道なのだから、この原宿の格の高さは、東京の原宿の比ではないだろう。

N07-011(第201号) フルーツドーナツ(フランドル松屋) → N07-012(第202号) UFOパン(フランドル松屋) →
N07-013(第203号) 夕張りメロン(フランドル松屋) →
 駅前通りが東海道と交わる角のところに歴史の深そうなパン屋があった。菓子も取り扱っている。駅前には旅館有、タクシー営業所有、そして立派なパン屋有。富士の峰の美しさに決して負けない素晴らしい光景が広がっていた。
 さて、原から沼津市街まで、てくてくと歩いて戻るのである。東海道を伝って、と云うよりも海岸に出て歩くつもりでいる。海岸に出るまで先ずは東海道の日常の情趣溢れた景色の中を進んだ。
 東海道から離れて踏切を渡ると、うっそうとした松林が近くに感じられた。青い海、白い砂浜、黒い松、そして雪を頂く富士。東海道のオーソドックスな景観が愉しめるまでもう少し、この松林を抜けたら海だ…! そんな風にして喜び勇んで前に進んだ刹那に現れたのは、海でも砂浜でもなく巨大なコンクリートの構造物だった。なるほど、津波や高潮を防ぐための堤防である。この堤防を越えると遂に…眼前に穏やかな海原が広がった。
 素晴らしい。白い砂浜の姿はそこに無かったが、十分に心穏やかになる絵が広がっている。実際には冬の肌寒さに支配されているのに、心の内はポカポカ和む。それではあのパン屋兼菓子店で買った美味しいおやつを食べるとしようか。

(第3日八つ)
N07-014(第204号) エクレア(フランドル松屋) →
<エクレア> ¥230(込)
いちごが配されているが、フルーツエクレアとは云わないらしい。しかし都会のように小さく澄ましているわけではなく、がっつりと頂ける。後からどんどん溢れる2種のクリームは無圧布団だ。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★★☆
 流石は天下の東海道。北海道のうら寂しい海岸線とは大違いだ。人の営みの匂いがふんだんに漂っている。しかし人間と云うのはどこまでも勝手な生き物である。砂浜が消失したり、痩せ衰えているのは、護岸工事をしたりしてコンクリートで塗り固めたり、ダムを造って土砂を流れにくくしているためである。利権に、防災の名目も兼ねて。それでいて今度は、防災の観点からも砂浜から玉石を持ち出すなとくる。持ち出したら犯罪だよ、と。それでは砂浜と云う財産を失わせる護岸工事もダム建設も犯罪行為だと云うことに、なるのだね…意地悪な見方をするなら。さんざんリゾート開発をして自然環境を破壊してきたとある鉄道会社の駅ホーム脇の植え込みに、立ち入り禁止の札が立てられ、そこにその鉄道会社名で「自然を大切にしましょう」との文言が書かれていたものだから、大笑いしてしまったことがある。この手の愛護的思考の身勝手さには実に辟易させられる。ま、しかし、ここの景観は住民運動によって守られて、あの開発旺盛な昭和の時代を乗り越えた経緯もあるから、それについては敬意を表したいものだが。
沼津(ぬまづ)
 沼津港によって千本浜は終わりを告げる。同じ日常と云っても風光明媚な長閑さから石油臭い煤けた営みの匂いへと変わる。海岸沿いに歩いてきたが、この先は狩野川の河口となる。どのみち、海岸線を片時も離れずに歩き続けることは不可能となる。しかしその手前に港口があって進路は寸断されている…はずなのである。が、ここで港をひょいと渡る建造物のお目見えと相成るのだ。
 それが「沼津港大型展望水門びゅうお」である。普段はなかなか眺望の素晴らしいタワーとして使われるが、緊急時には、避難施設に早変わりする。水門は無論、津波除けのためだ。
 さて昼時である。「びゅうお」の隣には「INO(イーノ)」と名付けられた魚市場がある。ここにあるレストランでランチに与ることにした。

(第3日昼食)
N07-015(第205号) アヒカツ@トニーズ ホノルル(沼津魚市場INO) →
<アヒカツ(ライス付)> ¥1,380(込)
アヒ=マグロ、と云うことでマグロのカツである。マグロならではのレア感。火は表面しか通っていない。トンカツには真似出来ぬ芸当。トンカツに比べて衣部分も薄い。ガツンとマグロを食わせる感覚。少なくともこれ位に思い切らないと、やはり肉に比べて魚は弱い。食べ応え感も、野趣溢れる風味も、物足りないものである。良く捉えるなら素材の味を活かそうと云うことなのだろう、ソースはジンジャー風味も弱く、若干薄めた和風胡麻ドレッシングに近い。魚は工夫し、努力もしているが、周りのパンチ力が少々足りない。このマイルドさがハワイアンなのかもしれないが。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
 昼過ぎの市場は閑散としていた。既に明朝の出番へ向けて静かに待っている雰囲気だった。「びゅうお」と云い、この魚市場の通路と云い、景色の見せ方が上手い。昨日訪れた深海水族館周辺は完全なる観光仕様だが、こちらは幾らか業務仕様である。業務用故に埠頭の先端に位置していて、市街地から見るとどん詰まりの場所となる。車ならすぐにアクセスすることが出来るのだろうが、徒歩だと遠く感じるところである。ところが、「びゅうお」のお蔭で千本浜から直接アクセスすることが出来るのは、回遊性を考える上で大きなものがある。有料ではあるが、あそこからの景色はなかなか良いものだった。
 狩野川沿いを歩いて港大橋を渡り、再び海岸沿いへ、我入道(がにゅうどう)・牛臥(うしぶせ)へと向かった。狩野川は台風の名で著名な川である。港町には急峻な地形のところも多く、平地の確保に難儀して、そのせいで人口減に悩んでいる場合も少なくない。その点、この沼津と云う町には、市街地に隣接する形で香貫山と云う山はあるものの、基本的には坂の殆ど無い平らな土地が広がっている。しかし津波、高潮、河川氾濫、極めつけは軟弱地盤。折角、平地には恵まれているのに、そのせいで新幹線に逃げられて、他の坂の港町同様に結局は衰退傾向著しい。思わず溜息が出てしまった。物事とはつくづく、上手いこと運んで行かないものだ。
 我入道・牛臥には、静謐な趣があって、何か秘密めいた雰囲気に包まれている。千本浜で終わりとせずにこちらまで足を延ばして実に良かった。その風景は折からの夕日に煽られて、ますます輝いて見えた。
 しかし沼津には魅力的な建物、そして場所が多い。流石は近代都市としての繁栄を積み重ねてきた町だけある。商業的な面だけでなくリゾート地としても認知されてきた歴史が大きかった。それが東京から人と物を高度に運んできたからだ。
 それが「仲見世」とは別に「アーケード名店街」と云う重厚な趣の商店街を擁していることにも表れている。仲見世よりも奥まった場所に位置しているにも拘らず、二流になるどころか幾らか高級な雰囲気を湛えている。しかし、今時分にはそれも相当に色褪せている。駐車場を完備し、路上に駐車することの出来るようにも整備して、一応は車社会に対応しているのだが、如何せん駐車代がタダにはならぬところが痛い。それにしても幾ら何でもシャッターが下り過ぎやしないか…もしや今日は定休日ではなかろうかと思っていたらやはりそうだったようである。本日は水曜日だ。
 仲見世のアーケードを抜けると真正面にそびえる高層ビルがある。上がマンション、下が商業施設となっている昨今よくありがちな再開発ビルの「イーラde」だ。商業施設とマンションの間には駐車場が設置されていて車にも「対応」しているのだが、さて。

(第3日八つ)
N07-016(第206号) ニューヨークチーズケーキ@ケニーズハウスカフェ(イーラde) →
<ニューヨークチーズケーキ> ¥450(込) 飲み物付セット ¥750(込)
ソフトクリーム等乳製品に自信のある店のようで、伊豆急(東急)が展開した伊豆高原と云うブランド名を有効に活用している。牧場と云えば高原のイメージはぴったりだ。ニューヨークスタイルのチーズケーキだけあって、若干の臭味やくどさのある風味と、滑らかに詰まった生地の趣は、予想に違わぬ満足感が得られる代物であった。
形状→★★★★☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
 美味しい食べ物があり、窓の外には駅前の風景が広がり、それをつぶさに見つつ、のんびり時間潰しや休憩することも出来て…と、この店のお蔭で「イーラde」は私の中で価値ある場所になった。しかし他の人にとってはどうだろう。ここ以外の店はどうだろう。駅ビルのような軽薄さの再開発ビルと云う立地性から、居るだけでわくわくするような施設にすることは相当程度、困難である。百貨店の重厚さと云うのは、その点で非常に魅力的だ。しかし消費の高度化とカジュアル化が同時進行した時世の中で、最早、沼津の百貨店にそのことを期待するのは無理であろう。
 沼津駅のホームに371系がやってきた。新宿からの「あさぎり7号」だ。ダイヤ乱れも無く定時での到着である。ホームには乗客が待ち構えている。しかし上り「あさぎり」の最終は既に沼津を出発しているのである。それではこの人たちは、そして私はどこへ向かおうとしているのか。
 何と沼津に19時43分に到着した下り最終「あさぎり7号」は、その僅か17分後に今度は「ホームライナー浜松5号」となって一路浜松へと夜の東海道本線を下るのである。普通列車で2時間以上掛かるこの区間を、「ホームライナー浜松5号」は、1時間37分で走り抜ける。静岡までなら途中、富士と清水にしか停まらないから37分で着いてしまう。速達性もさることながら、座席の良い特急車両に運賃の他、乗車整理券310円で乗れて東西に長い静岡県内を横断することが出来ることが、この列車の一番に素晴らしい点だ。
 私の目的地は浜松の手前の掛川だが、浜松に21時37分に到着したこの列車は、折り返し浜松22時01分発の「ホームライナー静岡8号」となって22時59分に静岡に到着、長い1日を終える。そして翌朝、静岡7時00分発の「ホームライナー沼津2号」として沼津へと向かう。沼津には7時40分に到着。そこで何食わぬ顔をして「あさぎり2号」に変身、8時ちょうどに新宿へ向けて出発する。小田急線内で「あさぎり」として眺めてきたこの列車が、その後、静岡県内でこれほどに多忙な活躍をしていることを知る人は、一般的には殆どいないであろう。「あさぎり7号沼津行き」は、事実上「浜松行き」だったのである。
(第3日夕食)
N07-017(第207号) 清流うなぎ弁当@沼津駅(桃中軒) →
<清流うなぎ弁当> ¥1,650(込)
掛け紙に、ぎゅっと引き締まった歯応えのある味とあったが、これが完全に裏目に出てしまったように思われた。それと云うのも、すっかり冷え切ってしまった蒲焼きは、あたかもゴムのような…とでも云おうか、硬さと弾力性が気持ち悪く融合したびろんびろんな歯応えになっていたのである。
形状→★★★☆☆ 風味→★★☆☆☆ 総合→★☆☆☆☆
掛川(かけがわ)
 夜の掛川駅前は都会の郊外の雰囲気があった。如何にも浜松の郊外のようにも見えるが、掛川は自分自身の都市圏を持っている。地方都市を郊外に「魅せる」力、「似せる」力は、東海道メガロポリスの威力によるものなのかもしれないと思った。ここは東海道。そのド真ん中で過ごす夜である。
→第3日旅程→
沼津 10:18 →東海道本線 普通(1429M)→ 原 10:25
原 →徒歩→ 沼津
沼津 20:00 →東海道本線 ホームライナー浜松5号(4365M)→ 掛川 21:16  
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