8憩 初の広い島の山と海-

島県次市/庄原市/島市/山市/三原市/岡山県笠岡市- 第4
三次(みよし)

(第4日朝食)
N08-014(第227号) りんごのデニッシュ(タカキベーカリー) →
  N08-015(第228号) こしあん(沖田製パン) →
<りんごのデニッシュ>
割とべちゃっとした形でりんごが佇む。柔らかに生地に馴染む一方でしゃっきりとした口触りやヴォリューム感には若干欠ける。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
<こしあん> ¥125(込)
見事に和になったパン、日本の輪の中に入り込んだパン…あんぱんって偉大と云うことを存分に感じさせてくれる。実際、饅頭よりも軽やかで、それでいてそれなりの重みと云うものもある。
形状→★★★★★ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
備後落合(びんごおちあい)
 今日も中国山地山里行脚である。昨日歩いた備後西城は通過して、第2日以来となる備後落合へとやってきた。今日はここから西城交通のバスに乗って、更に奥へと進む。芸備線以上に三次や庄原で幅を利かせる備北交通の路線バスは、備後西城までしか行かない。その先は西城交通の独擅場である。旅先でコミュニティバスの類に乗るのは初めてのことである。
 が、しかし、第2日に初めて備後落合を訪問した折、予習を兼ねて駅周辺を散策したものの、バス停らしきものが一切見られなかった。西城交通ウェブサイトにある時刻表にはきちんと「落合駅前」通過時刻も記載されているのだが…。そこで問い合わせてみたところ、確かにバス停は無いらしく、適当に駅前の国道で待っていればイイ、と云うことなのであった。
 バスには無事乗れた。写真を撮っているせいで、バスに乗る意思なしの酔狂な旅行者とでも間違われて、目の前を通過されては敵わない。きちんと乗ることをアピールしなければと一生懸命に手を上げた。これが良かったのだ。コミュニティバスは一回の運行で出来得る限りの場所を回らねばならない。同じところを二度通ることはザラだ。そこが普通の路線バスとの違いで兎に角、時間が掛かる。本来なら30分弱で辿り着けるところを、こねくり回しに回してたっぷりと50分掛ける行程である。
 山の上へと進むうちに雪深くなると共に、何よりも霧が濃くなった。白い空気がザララと吹き渡る。実に幽玄な光景だ。バスの中はさながら、やや冷えたこたつのようである。
 無論、私の自由意思によってバスから地へと降り立ったのだが、何かポーンと放り出されたような気分になった。風がしたたかに、びゅーっと吹き抜けるその空間は白く霧で覆われていて、忽然とその場に取り残されたかのような心地がした。
 私がここへ来たのは他でもない、食事にありつくためである。しかしこの季節にしてこの山の中だ…万一営業していなかったら中々の悲劇になると思われたから、きちんと事前に電話確認することは忘れなかった。バスと云い、食事処と云い、こんなに確認をしなければ成り立たない旅路も余り記憶にない。普段なら下調べこそするものの、営業外だった場合や気が変わった場合には当たり前のように予定を変える、行き当たりばったりのスタイルなのだが。
 そこに美味しそうなものあれば、山深くとも辺鄙な場所でも是非に訪れたい…それがきっかけであり、且つ、目的にもなる。庄原では「備北のどんぶり」なるご当地グルメキャンペーンを行っていて、大いに興味を惹かれたが、昼はその代表格を頂く。

(第4日昼食)
N08-016(第229号) ひばごん丼@峠の茶屋やまびこ →
<ひばごん丼> ¥800(込)
海苔・山芋・葱・こごみ、それに鶏肉がトッピングされている。山芋が入ることで、急速に山の幸感が出ると共に、混ぜ合わせの妙技がとことん発揮されることとなる。丼以外の小鉢の取り合わせもなかなかで、見た目も華やぎがあり、非常にバランスが良い。
形状→★★★★★ 風味→★★★★☆ 総合→★★★★☆
 食後のお茶に「ヒバゴンのたまご」と云う名の菓子が付いてきた。確かに野人が棲み付いていそうな情景の広がる土地だと思った。勇壮な気候の中でゆったりと時の流れる温い空間は、まるで卵の中のようでもある。
比婆山(ひばやま)
 備後西城駅前にある、その名も「駅前タクシー」を呼び寄せて帰路についた。しかしまた備後落合で列車待ちの時間潰しをするのも詰まらない。そこで備後落合と備後西城の間にある比婆山駅まで連れていってもらうことにした。比婆山と備後西城の間は3km余り。山間部を抜け出して田園地帯、更には半市街地が広がっているから、歩くにしても気が楽だ。
 駅舎内部には、写真が綺麗に飾られている。北海道みたいだなと思った。確かに北海道の駅のように人気も無い。しかし辺りからは、人の匂いがふんだんにする。やはり内地だ。
 この駅は1935年に備後熊野と云う名で開業した。しかし1956年に現在の比婆山に改称された歴史を持つ。だがその比婆山へは寧ろ、備後落合を挟んで隣り合う木次線の油木の方が近い。何のために改称したのか不可思議な感じもする。しかし熊野神社、那智の滝から始まり、立烏帽子山、比婆山と一帯を次第次第に舐め回す際の玄関口としては、この駅の方が相応しいのかもしれない。
 比婆山は、非常に絵になる駅だ。備後落合は周囲の状況は別にして、駅舎自体は余り大したことがない。その点、比婆山の駅舎はなかなか味わい深い。それとは反対に駅周辺は平凡である。が、この平凡さがまた素晴らしい。駅前商店がちゃんと佇んでいる。駅と駅前商店。平凡さの稼働が、非凡なものとなりつつある、それが2010年代と云う時代なのである。
 比婆山駅から少し歩くと美古登と云う集落が現れた。現在、美古登と云う名の住所は存在しないが、1942年までここは美古登村と云う独立村だった。美古登(みこと)と云うのも美しい響きの名前だが、恐らくは「命」に由来するのだろう。比婆山にはイザナミノミコト(伊邪那美命)の墓があると伝わる。
 しかしやはりここは現代の世界である。古の神話の時代の里に似つかわしくない建造物が俄かに出現した。それも日章旗と並んでシンガポール国旗がはためいているではないか。驚くべきことにシンガポールのフィルム液晶パネルメーカーだそうである。イザナミノミコトと云えば日本列島産みの親と云う話だが、マレーシアからの分離と云う形で産み落とされた島国シンガポールが、嘗て昭南島と呼ばれていた時分に西城町の一部となって消えた美古登の地にやってくる巡り合わせの妙は、神話級のものであるように感じられた。
備後西城(びんごさいじょう)
 特段の疲労感を覚えるまでもなく、西城市街へと戻ってきた。市街地の中心は駅の西側一帯である。支所、病院、図書館、体育館、商業施設…これらは皆、西側にある。その中心部の威容がよく見える位置に「西城十日市」と云うバス停があった。現在の三次市街の中心も十日市であることを思い起こした。ところが芸備線の車窓からもよく見える西城の印象的な街並みは、この西側のものではないのだ。

第2日、備後落合からの帰りの列車の中から撮影した西城市街。この反対側に西城十日市バス停がある。

 第3日に駅西側にある商業施設ウイルにて遭遇した「アラキベーカリー」や「ギフトショップあかぎ」の「本店」も、線路を潜った先の駅東南側の街に佇んでいた。加えてそこには「西城本町」なるバス停もある。三次と同じ匂いがしてきた。元々、西城の中心は駅東南のここ、本町だったのだろう。しかし川と山に挟まれた窮屈な地形につき、平地には乏しい。そこで比較的平地の広がる駅西側に主要な施設が建設されて、そちらが西城町の中心になっていったのではなかろうか。そもそも駅自体が広い土地を求める性質の施設である。昔は貨物輸送も鉄道で行われていたから、倉庫やヤードを設けるスペースが必要だったからだ。したがって恐らくは備後西城駅開業を機に、西側の開発も進められて、やがてはそちらが町の中心になっていったのだろう。三次に於ける三次地区と十日市地区の関係性を彷彿させるところがやはり多分にある。西城もその中心が「三次」から「十日市」へと移っていったのだ。
三次(みよし)

(第4日夕食)
N08-017(第230号) てりやきバーガー@スパロー(サングリーン三次) →

N08-018(第231号) 広島風お好み焼き(セブンイレブン) →
<てりやきバーガー> ¥260(込)
てりやきのソースについてはマックの物の方が好み。立体的に迫ってくる趣がなく、何かしょっぱい感じ。平板。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★☆☆☆
<広島風お好み焼き(肉玉そば)> ¥450(込)
「肉」は大したことのない、けちょんけちょんのものだが、「そば」の分厚い壁の存在は大きい。食べた気分になる。そして葱がかなりのアクセントになっている。薬味とはよく云ったものでホントに薬みたいなもの。
形状→★★★☆☆ 風味→★★★☆☆ 総合→★★★☆☆
 広島の天満屋閉店に続いてこの日、天満屋系の福山ロッツ閉店の報にも接した。元福山そごう、駅から少しだけ遠い。福山駅前には天満屋本体も店を構えている。が、そちらも賑わっているようには見えず、別館を維持する体力など望むべくもないように思われた。地方都市の中心部の先行きは暗い。更にはこれから数日の天候の先行きも、暗い様子だ。
→第4日旅程→
三次 10:47 →芸備線 普通(354D)→ 備後落合 12:05
落合駅前 12:27 →西城交通(バス)→ 三坂新橋 13:13 と クロカンパークすずらん 13:16 の間の地点
峠の茶屋やまびこ →タクシー→ 比婆山駅
比婆山駅 →徒歩→ 備後西城駅
備後西城 17:28 →芸備線 普通(363D)→ 三次 18:28
←第3日← 4 →第5日→
東美餐珍帝國風土記目次
as of 2012.03 / uploaded 2018.0421 by 山田系太楼どつとこむ

©山田系太楼 Yamada*K*taro