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舌は自ずと心をつくる
(N03-031 第62号)
根室ラスクマン(セット) ::一爐菴::
うら寂しき最東端の街に花咲くニュー娯楽食文化 第5日 にて遭遇
 根室の駅前通り、青いモニュメントのすぐ脇にある菓子処の一爐菴(いちろあん)。立地的にも品物のリッチさからも根室を代表する存在感を持つ。各地で馴染みの光景だが、和菓子から出発したのち、次代が時代の流れに沿って洋菓子へと手を伸ばす黄金パターンを、この店も踏襲しており、盤石である。
 焼きドーナツ同様、ラスクもまた創作の素材となりやすい。しかし根室の場合はそこに「必然」がある。1792年のラクスマン来航は歴史の授業で必ず扱われる出来事であり、根室の全国的知名度向上には大いに寄与してきた。このラクスマンの名とラスクを掛け合わせ、更にメッセージを携えてやってきた彼に仮託して、ラスクを通じて根室をアピールするスタイルは、単なる駄洒落に止まらない洒落っ気のあるものとなっているように感じられる。
 本品は一爐菴にて遭遇したものだが、「7種セット」は、一爐菴を含む7店が協同して一種ずつ持ち寄ったオール根室的コラボレイション形態となっている。
 本品で何よりも気に入ったのは、そのパッケージングだ。形状から鑑みるに文書を収めた箱をイメージしたのだろうか…しかし昔の貨車や倉庫のような趣のデザインはなかなかシックで良く映えており、箱として申し分ない。
一爐菴 清月菓子店 パテスリーはまざき 焼きたてパンNi〜No
手作りお菓子 詩菓家 山森製パン 畠山菓子店
 先ずは一爐菴の「ドーナツラスク」から。
 直上の画像など焼きドーナツ(プレーン)の外観と似たものがある。一爐菴の焼きドーナツにはプレーンの他、抹茶・チョコ・コーヒーとあり、本品とも対応している。焼きドーナツを根室名菓にしようと推している戦略と、このラスクマンプロジェクトの整合性が非常に良く取れている。新たな根室名物創出へ向けてシナジー効果も出やすい。本品の大きな立体感は他の六つのラスクを圧倒しており、今にもパッケージからはちきれんばかりの勢いだ。分厚く、生地もよく詰まっており、食感的にはラスクと云うよりもクッキーである。殊にバターと玉子の風味豊かな「プレーン」タイプの充実度は高い。セットの値段は¥1,100(込)だが、ドーナツラスク単品では¥130(込)となる。
形状→★★★★☆ 一爐菴
時:09:00-19:00 休:日曜不定 処:根室市光和町1-1 地図→ 電:0153-23-3895
公式サイト→ 食べログ→
風味→★★★★☆
総合→★★★★★

 次に清月菓子店の「こんぶ塩ラスク」。潮風薫る如何にも根室らしいラスク。「ドーナツラスク」に比べて歯触りの軽さは革命的に思えるほど。この軽さ、近頃のラスクと云ったところ。塩味が程よく作用して、淡い郷愁を誘う。
形状→★★★★☆ 清月菓子店
時:08:00-19:00 休:日曜 処:根室市松ヶ枝町2-27 地図→ 電:0153-23-3756
食べログ→
風味→★★★★☆
総合→★★★★☆

 続いては、パテスリーはまざき の「ガトーラスク」。ラスクらしくはない。リーフパイの趣で、ラスク性抜きにして普通に美味しい。バターの風味が豊かに広がる。サクサクッと進む。
形状→★★★★☆ パテスリーはまざき
時:09:30-20:30 休:水曜(月2回) 処:根室市西浜町8-116-2 地図→ 電:0153-24-5880
食べログ→
風味→★★★★☆
総合→★★★★☆

 続いては、焼きたてパンNi〜No の「メロンラスク」。名前からするとメロンパンをモチーフにした感じがするが、ザ・普通、パン屋にある昔ながらのラスクと云った趣。ラスクがブームになる前からあったラスク。もちろん、メロン香料の調べはなかなか強力なものがあるけれども、ホッとする懐かしさが先行する。奇をてらった感じはしない。それにしてもグラニュー糖のじゃりじゃりした口触りが堪らない。ちっちゃな食パン風のフォルムも可愛らしい。
形状→★★★★☆ 焼きたてパンNi〜No
時:09:00-19:00 休:火曜 処:根室市緑町1-22 地図→ 電:0153-23-2121
根室市緑町商店街振興組合→
風味→★★★★☆
総合→★★★★☆

 続いて、手作りお菓子 詩菓家 の「カニカニぐー」。根室と云えば蟹、花咲ガニで有名である。しかし花咲ガニは正式には蟹ではなくヤドカリの一種だ。脚の数も4×2の8本しかない。それでこの蟹の脚の数を数えたら5×2の10本である…これは本家本元、正真正銘の蟹だ。花咲ではなく毛ガニか何か、と云うことになる。フォルムからもこぢんまりとしたオーストラリアのような趣が漂い、花咲のような猛々しさはない。見た目はラスクではなく完全にモナカだが、丸みを帯びた中にも精巧且つ精悍な薫りのする造形的レヴェルの高さを見せている。内部には、色合いの面からも風味の面からもかぼちゃが入っていそうなところが多々あるのだが、原材料名を見る限り、かぼちゃは含まれていない。しかし甘く彩られたかぼちゃのような風が吹き抜けるのだ。生クリームと玉子と砂糖とバニラエッセンスとトレハロースでそんな味になるらしい。そして胡麻の風味が、時が経てば経つほど発揮されて、素朴な色彩を強める。
形状→★★★★★ 手作りお菓子 詩菓家
時:09:00-20:00 休:第1/第3水曜 処:根室市緑町3-47 地図→ 電:0153-23-3872
根室市緑町商店街振興組合→
風味→★★★☆☆
総合→★★★★☆

 続いて、「クロスク」。根室では有名なカステラサンドの山森製パンによる作。クロワッサン×ラスク=クロスク…と云うことでパン屋ならではの一品である。リーフパイのような感じでもあるが、それを大きく凌駕するふっかふかサックサクの口触り感覚が素晴らしい。造形の楽しさが美味しさにも繋がっている。
形状→★★★★★ 山森製パン
時:09:00-18:00 休:日曜 処:根室市弥生町1-53 地図→ 電:0153-23-4082
食べログ→
風味→★★★★☆
総合→★★★★★

 最後を飾るのは、畠山菓子店の「あずき"和"ラスク」。フォルムとしては長年培われたラスク感溢れるものだが、ふんだんに豆が踊っている辺りが方程式を壊している。あずきとのことだが化石のように加工されてしまえば黒豆のようでもあり、食してみると煎餅の趣が漂う。そんなゴツゴツした状況の中でも、きめ細かな小麦の生地性がじわじわと発揮されて、和の向こうに見える洋、即ちロシア・北方領土を望む海を感じる。根室だ。
形状→★★★☆☆ 畠山菓子店
時:08:30-20:00 休:日曜 処:根室市栄2-111 地図→ 電:0153-24-2860
食べログ→
風味→★★★☆☆
総合→★★★☆☆

一爐菴 清月菓子店 パテスリーはまざき 焼きたてパンNi〜No
手作りお菓子 詩菓家 山森製パン 畠山菓子店



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as of 2016.03 / uploaded 2017.1028 by 山田系太楼どつとこむ
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