東急多摩田園都市。日本有数のブランド力を誇る住宅街として発展を遂げてきた。
しかしその高い人気と引き換えに失われたものは余りにも大きかった。
何てったって「田園都市」なのである。都内よりも多少は広くて静かな空間と美味しい空気を求めて越してきたはずなのに。。。
プチ・セレブな郊外生活への渇望がこの地で満たされることは、ほぼほぼ不可能なことだ。
都内へと通勤している限り。
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田園都市線の混雑は一人の人間をぎゅうぎゅうに詰められた寿司へと簡単に変貌させる。
混雑率はひと頃よりも下がったが、未だ180%を超えるのだ。優雅な郊外生活などあったものではない。
その内に埼玉から楽しく郊外生活をアピールしてくる電車が現れた。
相互乗り入れ先の “東武スカイツリーライン” からクレヨンしんちゃんラッピング車両が颯爽と走り込んできて、
東武沿線の方が魅力的なことをしきりとアピールしてくる。
東武は伊勢崎線東武動物公園以南を“スカイツリーライン”と命名したわけだが、
野田線についても“アーバンパークライン”と云うちょっと田園都市線に似たネーミングを施して沿線イメージ向上に躍起だ。
確かにあちらの方が優雅な田園都市生活を、それも安価に送ることが可能だろう。
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田園都市線では嘗て山手線等にもあった6扉車が永らく健在で、
それも10両編成中3両も占めていて、乗客のスムーズなすし詰めに貢献していたが、
使用車両仕様の不統一がホームドア設置の観点から邪魔となり遂に姿を消すこととなった。
抜かれた3両の代わりに入れられた新車の車内は一部に木目調が採用され、座席も緑色系となって
田園都市線の名に違わぬ田園風景を意識したものとなった。ドア横の2席についてはヘッドレストまで付く豪華仕様だ。
多くの路線で座席定員制クロスシート車が走る中で漸く遅れ馳せながら東急も、車内環境の充実を考え始めたようである。
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将来の人口減少は人気の東急沿線にとっても例外ではない。沿線価値向上を図らねばならない。
そのためには、田園都市線を名前だけの掛け声倒れに終わらせないことは重要だ。
即ち、田園都市線の田園都市化、である。
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東急の駅売店「トークス」は、ローソンと提携しているため、
ヴァラエティやクオリティに難のあるものもあり、こちらも「田園都市」のイメージからは乖離した状態に成り下がっている。
駅売店なら駅勢圏の隣接する小田急のほうが魅力的かもしれない。
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ところが青葉台駅上りホーム上にある「トークス」にて感心する売場に遭遇した。
何とも田園都市らしさ、青葉台らしさ溢れる品々がそこには並んでいた。
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青葉台駅南方にある「ルーシーズベーカリー」の菓子類と、駅北方にある「コペ」のパンが洒落た趣で販売されていたのだ。
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ルーシーズ ベーカリー(Lucy's Bakery) ベーカリーカフェ コペ(Bakerycafe COPPET)

それでは、店に出向いて手に入れたものは別頁にて紹介することとして
(→コペ店舗で遭遇したもの) (→ルーシーズ店舗で遭遇したもの)
ここでは売店で手に入れたものを…

[コペのパン]
コロッケパン ¥230(込) パワフルでもありコンパクトでもある。単純ながらやはりパンは美味しい。
そこは流石に通常のコンビニパンとは違う。
コロッケは並の仕上がりでもうすぐ子守歌になりそうなところを
胡麻の風味が穏やかに覚醒させてくれる。
形状→ ★★★★★
風味→ ★★★☆☆
総合→ ★★★★☆
イチジクと栗のデニッシュ ¥230(込) 渋川と伊香保のハーモニーのように一艘の船の上に乗る
渋皮と黄金甘露な栗のアンサンブルは先ず以てヴィジュアルから美味しい匂いがする。
甘みは割と抑えられているから栗存在にリアリティが宿る。
もちろん、残した渋皮の効能もあるだろう。パワフルである。
デニッシュ生地に特筆すべきところはないが、コンパクトにまとまっている。
形状→ ★★★★★
風味→ ★★★★☆
総合→ ★★★★☆
かわいい形のパン ¥100(込) この手の、某キャラを模したフォルムのパンは比較的よく見かけるものであるが、
某キャラの中には、詰め物が入っていることもあって、
中身がプレーンで何も無いシンプルな代物は珍しいかもしれない。
飽くまで主題は、かわいい形であることであればイイわけだ。
ふくよかなる無味風味加減が沁み入る一品である。
形状→ ★★★☆☆
風味→ ★★★☆☆
総合→ ★★★☆☆
野沢菜チーズのおやき風 ¥180(込) 生地は悪くないが野沢菜とチーズの融合具合がイマイチの感。
チェダーチーズだったらどんな塩梅になるのだろうかと夢想。
その取り合わせは無双的なものとなるだろうか。
或いは野沢菜の代わりに高菜を使ったらどうなるだろうか。
こんなに創造的且つ想像的になるほどに、本品の内向きさはパワー不足なのだ。
形状→ ★★★☆☆
風味→ ★★★☆☆
総合→ ★★☆☆☆
豆乳はちみつベーグル ¥150(込) 実にふくよか且つ愛らしいフォルム。偶然の確率か狙い打ちか、
ハートフルに仕上がっているではないか。
豆乳だからボソッとした内気充満なフレイヴァが微妙に広がる。豆乳は十分だから、
もっと投入して貰いたいのが、はちみつ。過度に高いのももちろんバランスを崩すから問題だが、
はちみつ度が高ければ高いほど、基本的には、貴婦人のように仕上がってくると思うのだ。
もっと、はちみつ投入で豆乳グッド!
形状→ ★★★★★
風味→ ★★★☆☆
総合→ ★★★☆☆
キーマカレーチーズ ¥190(込) キーマはフィリングとしては非常にイイものがある。
コクが深く、水っぽくなりにくく、それでいて挽肉メインだから軽やかに食べやすい。
パン生地が平らかすぎるきらいがあり、もう少しふくよかに包まれるなら、
フィリングももっと立体的な展開性を持てたように感じる。ややクドい。
形状→ ★★★☆☆
風味→ ★★★☆☆
総合→ ★★★☆☆
→Bakerycafe COPPET店舗で遭遇したもの
続いてはLucy's Bakery。非常にアメリカンテイストな店である。
バナナブレッド ¥310(込) 濃厚濃密な味わい。モンスーンの只中に佇んでいるかのよう。
バナナが凝縮されている。シットリと云うよりもドッシリしている感覚。
アメリカンなだけにピーカンナッツを多用するところもこの店の特徴。
クセの無いフレイヴァは、バナナのクドさを消しつつ、濃厚濃密さは損ねずに融合。
形状→ ★★★☆☆
風味→ ★★★★★
総合→ ★★★★☆
→Lucy's Bakery店舗で遭遇したもの。
駅売店では取り扱っていないパイ や ケーキがいっぱい。
17年7月に田園都市線史上初の「特急」が運転された。
ところがこの「特急」、田園都市の中枢たる、たまプラーザ、そして青葉台を通過したのだ。
まさに二重のサプライズ襲来に、質・量双方からの試行錯誤が当面続きそうな気配を感じた。
確かに東急は、豊富な沿線人口が将来的にも見込めるがために、楽して座していられる現況ではある。
他の鉄道事業者にとっては羨ましい限りだろう。
しかしながらデザイン力に優れた小田急に対して決定的に後れを取りつつある。
また、直通先の東武も積極策を続々と繰り出してきており、正念場を迎えているのも事実だ。
折角の沿線の魅力を、駅そして電車へと導入することが出来るのか…東急の細やかなセンスが試されている。

as of 2016.12 / uploaded 2017.0923 by 山田系太楼どつとこむ

「田園都市」と云えば、ハワード。バイブル、のようなものである。
それは単に過密の都市から脱出して、
豊かな自然環境の下で暮らすだけのものではない。
「職住近接」こそが、「田園」と共に上質な暮らしには必要なものなのだ。
つまり田園都市線を使って通勤すること自体が、
既に田園都市生活からは乖離しているわけである。
田園都市の理想の実現は、鉄道会社・東急の存立に関わるものだが、
この矛盾を解決した暁には、理想の日本型田園都市が誕生することになろう。

そこで郊外が単なるベッドタウンではなく職住近接型になるために
娯楽や歓楽の類の重要性を指摘するのが本書である。
やはり日本はアジアなのだなと思うのが猥雑性に向けられる魅惑の眼差しだ。
昨今何事も小奇麗・小ざっぱりしたものを好むが、
これが確実に物事を砂漠化させている。
所詮、日本の街並みは欧米のような美麗さにはならない。
無味無臭になるだけである。
神奈川・大井町の第一生命や青学大の厚木からの撤退、
その他郊外キャンパスの苦戦ぶりを眺めるに、
娯楽・歓楽の要素の乏しい郊外・地方への移転は、
欧米のようには上手く行かないことを示している。
元より世俗的であり、世俗の中にうっすらとした宗教性を持ち込む日本人に、
修道院の如く一途に打ち込む空間に閉じ篭ることは耐え難いことらしい。


kl3200keiより
朝の田園都市線ラッシュの光景。
普通の都市生活でも気分が萎えるところ、夢の田園都市生活の結末がこれでは絶望である。
取り敢えず溝の口まで耐えて、ここから大井町線始発に並んで座れれば多少は快適になる。
しかし大井町はゴールにはなり得ない。都心へ向かうには再度乗換が必要だ。
大岡山から目黒線に乗り入れて、そのまま地下鉄南北線に直通するなら、
この溝の口始発の大井町線は大きな武器になる可能性も出てくるのだが。

puku0987より
そこで一計を案じた東急が出した答えが高速バス。
渋滞さえ無ければ、バス+電車利用よりも断然早くもちろん、快適。
但し、帰りの便の設定は今のところ無し。また終点が渋谷だから、
この先に職場がある人は結局のところ混雑した電車に乗ることになる。
本数も多いとは云えず、まだ戦力としての認定を受けているわけではないようだ。
このバスが田園都市線の手ごわいライヴァルになっている頃には、
沿線人口の減少が深刻化しているころだろう。

Ds Aobaより
決して高級住宅街と云うわけではないが、
東急の開発エリア=多摩田園都市区域とその外では、
街並みの表情にかなりの違いが出る。多摩田園都市区域の、
坂道中心の重厚な並木道が少し広めの区画と道幅を、より大きく垢抜けたものに見せる。
雑然とした雰囲気を大いに落ち着かせる効能を発揮している。
重厚な並木道は風呂敷のようなものだ。優しくセンスよく何でも、くるんでくれる。
「田」園都市なのだが、田んぼのあるところ(低地)は、田園都市の区域外なのだ。
ハイクオリティな田園都市生活が送れないことへの皮肉的象徴のような気もしてくる。
東急多摩田園都市は、坂道シリーズであってAKBグループではない。
世間的には坂道も、AKBも、秋元康プロデュースで違いは無い、のだが。

風呂敷と云うものは、とても日本的なものだと思う。
何て事の無い布を自在に変形させることで包み込み、持ち運べるようにする。
とても簡易的に。でもお洒落っぽくて。
本格的に、手間を込めて、バッグをこしらえる必要がない。
バッグのような重さも固定性もなく、ひょひょいのひょいと柔らかだ。
まるでそれは大仰に金属製のナイフとフォークを使って食することに対する、
箸でつまんで食べるような感覚だ。箸でつまむ分には、
ナイフとフォークの時のように、丈夫な皿だって必要ない。
工夫してありあわせの簡易的な様式で仕上げてしまう。実に日本的ではないか。

EKIMERO7より
東急線では、16年11月から12月にかけてディズニーとのコラボキャンペーンが実施され、
ラッピング車両が走行したほか、主な駅の発車メロディがディズニー楽曲に変更された。
多摩田園都市エリアでも、たまプラーザ駅がこのキャンペーンの対象となった。
私鉄最大の規模を誇る東急グループならではのスケール感を見せつけるものとなったが、
東武のクレヨンしんちゃんとのコラボレーションと比べると、沿線土着性は希薄である。
私鉄最大規模の東急だが、ビジネスの進め方は必ずしも私鉄最強とは云い難い。
東急百貨店・ストアの苦戦など、その最たるものである。

大宮鐡道より
クレヨンしんちゃんとのコラボについては素晴らしかった東武だが、
発車メロディでは詰まらぬ改変を行っている。
東上線池袋駅伝統の発車メロディ「Passenger」を
15年6月より平凡なクラシック楽曲へと変更したのだ。
池袋西口に東京芸術劇場があることを踏まえてのイメージ向上作戦だが、
伊勢崎線主要部に「スカイツリーライン」の愛称を付与した件と云い、
起点駅周辺のイメージを沿線全体の価値化に繋げる東武の方法論には賛同しかねる。
その点、渋谷ではなく、たまプラーザ等の多摩田園都市のイメージや
二子玉川の再開発をアピールする東急の
田園都市線沿線価値向上戦略は、適切なものである。
即ち、東武とクレヨンしんちゃんとのコラボを評価する理由の一つとして、
クレヨンしんちゃんの舞台が伊勢崎線のド真ん中に位置する
春日部であることを挙げるものである。

無機質な発車ベルが跳ねるようなメロディに取って代わられたとき、
国鉄が名実ともに終わってJR新時代がやってきたのだと感じた。
白と黒だけで構成された国鉄時代の駅名標から
JR東日本のコーポレートカラーであるグリーンの帯が付いたものへの変更が
視覚的清新さとするなら発車メロディの導入は、聴覚的清新さを体感させるものとなった。
ここに日本の鉄道を彩る一つの文化が生まれたわけだが、向谷実はこれを代表する人物である。
プロのミュージシャンである氏の手掛ける事業は発車メロディや車内メロディに止まらず、元々は、
音楽制作で育んだコンピュータの知識を活かした「Train Simulator」の開発で名を馳せていた。
趣味から始まったこの事業は今や、業務用として東急等に納入するまでになっている。

作者没後も永遠に終わらない家族。平成のクレヨンしんちゃんに昭和のサザエさん。
ドタバタ的愛の家族群像が展開される両者だが、
相互直通運転で繋がる春日部と桜新町がその地元。
クレヨンしんちゃんには東京の郊外・埼玉のリアリティがしっかりと投影されている。
風呂敷の中から飛び出した、何でもアリのワンダーランド。
それに引き替えサザエさんは、もはや一周回ってハイカラになってしまった。
「昭和」は次第に、ファンタジーに支配された異界となって平成と馴染んでいる。

田園都市生活とはどのようなものか。その一端を知ることの出来る
その名も「田園都市生活」と云う雑誌がある。
対象範囲には、田園都市線のみならず東横線沿線も含まれる。
田園都市の中の都市の部分・消費社会性の部分のみが大きく成育して、
田園都市全体に歪みが生じていることを図らずも本書は示しているかのようだ。
たまプラーザ・あざみ野エリアと隣り合う、
小田急線・新百合ヶ丘との対比もまた面白いものがある。
両者とも沿線を代表する閑静な住宅地だが、その肌触り質感は微妙に異なる。

多摩田園都市は、住都公団が開発した団地主体の街や
スプロール化の果てに生まれた住宅地よりも欧米色が濃く投影されている。
しかしそれはどちらかと云えば欧州色でアメリカンな匂いはあまりしてこない。
神奈川県下でアメリカンと云えば横須賀や横浜本牧などが本場である。
その観点からも「Lucy's Bakery」のような
本格派アメリカンの薫りは田園都市にあって異色だ。

©山田系太楼 Yamada*K*taro