じゃんけん大会に際し、中井りかと込山榛香がコンビを結成したのは、互いにとって素晴らしい判断だった。腹黒系として癖が強いから話題性があることに加えて、中井はAKBグループを代表するSR配信者だからSR関連の仕事に呼ばれる可能性がかなり高い。お蔭で込山もこうして裏の主役の座が掴めた。中井はトラブルメイカーではあるがNGTの現センターで秋元康のお気に入り。この有力メンバーと特別な関係を結ぶのも悪くない。他方中井からしてみてもインスタ等で女性アピールに余念のない込山と組むことはファン層拡大やイメージ改善の面で悪くない行動だ。次代を担う可能性のある本店若手メンバーと関係性を深めることは、グループ内生き残りの面で大切なことでもある。
中井りかの面白さはAKBグループ屈指のものがある。不安定さに起因する中井そのものの面白さもさることながら一人での喋りが独りでにエンターテインメントと化すところに一種のタレント性と云うものを感じる。クリエイティヴな部分での面白さがあるから秋元康が気に入るのも分かるが企業とのコラボレイション等のビジネス的な局面では、不安定さに起因するトラブルメイカーな部分や品の無い言動が大いに気に食わない面となって現れてくる。そうなると荻野由佳や加藤美南の出番となってくるわけである。
「青春時計」の清らかでのびやかなイメージや地元に密着して官民一体の後援が不可欠なNGTの特徴を考えると、中井りかのセンター抜擢はぎりぎりの判断である。しかしそうは云っても作者の秋元康が中井を念頭にせっかちな要素も採り入れて「青春時計」を構築した以上、中井をNGTに摺り合わせることと並行してNGTが中井に寄せる部分も必要になる。結局のところNGTはAKBグループであって、坂道シリーズではない、と云うところだろう。そこで更に坂道寄りの針路を取ったのがSTUである。
NGTに続く国内第5の姉妹グループSTUの1stシングル選抜発表は、坂道シリーズのそれソックリの雰囲気に包まれた。この中に「第2の中井りか」は居るのだろうか。現時点でその筆頭は森香穂か。しかし森は云ってみれば「限りなく坂道化した中井りか」である。中井と比較すると圧倒的に危険な薫りがしてこない。その意味では最もSTUらしさのあるメンバーなのかもしれない。
 

 2017年9月24日に行われたAKB48じゃんけん大会の最後に第3回ドラフト会議開催が発表された。メンバーが選定に関わった過去2回とは異なり、今回はファン代表が選定に関わる初の試みを実施するとのこと。個人戦ではなくユニット戦となったじゃんけん大会に引き続いての新趣向となり、何とかマンネリの打破とファンや世間からの関心を引き留めたい運営各位の悪あがきを覚える。

 こうなると焦点になるのがドラフト2期生の処遇となる。2年前の第2回ドラフト会議で指名されて研究生となったAKB所属のドラフト2期生が、1年経たずに正規メンバーに昇格した樋渡結依以外、放置されているかのような状況となっていたからだ。この間、16期生が研究生として加入してきたが16期生公演の開催やソフト化等、運営の売り込みが盛んに行われた。研究生曲についてもドラフト2期生は排除されて16期のみの参加であった。ドラフトよりも通常オーディションで加入した方が優遇されると受け取られる状況下で第3回ドラフト会議を行うのは無謀な薫りがしてくると云うものだ。

 それでもAKBになりたい人は大勢居るわけで、ドラフト会議自体は成立することだろう。しかしドラフト2期の処遇を見て、応募を取り止めた人の中に逸材が含まれていないとも限らない。また今回は新趣向としてファンが直接オーディションに参加する。選んだメンバーがちゃんと運営から推されるのか、不信感も渦巻くことになるだろう。そのせいでドラフト会議が白けることになるかもしれない。ドラフト2期生の処遇をどうするのか私は注目していた。

 そもそもドラフト2期生はなぜ冷遇されているかのような状態に置かれていたのだろうか。これには情勢の変化に基づく運営の方針転換が作用しているように思われる。最初のドラフト会議が行われたのは、2013年11月のこと。AKBは下降局面に入ってはいたが脅かすライヴァルの存在も無く、全盛期の余韻にまだまだ浸っていた頃である。ドラフト生は特に干されることもなく可及的速やかに正規メンバーに昇格していった。第2回ドラフト会議は2015年5月に行われたが、この頃から乃木坂46の躍進が安定的なもので、一過性のものではないことが顕著となる。何でもアリのAKBに比べて上品な味付けが施された乃木坂との人気はこの後逆転して、その差は開く一方である。AKBは姉妹グループを動員して漸く乃木坂に対抗出来るレヴェルに到達する有様だ。

 AKBの運営もこのことは重々承知している。乃木坂にもスキャンダルが無いわけではないのだが、AKBのスキャンダラスで下品なイメージが新規大型案件の受注に差障って悉く乃木坂に取られていることは、ビジネス面から眺めても痛恨の事態と云えよう。AKBの腐敗は何も運営幹部やスタッフのみにまつわる問題ではない。AKB全盛期にすっかり芸能人化してしまって純粋さや熱量が失われた古参・中堅メンバーも腐敗の一端を担っている。アイドル活動に対するメンバーの意識の低さがスキャンダル続出の温床となっているとの判断を運営は下したわけである。

 一時緩くなっていたスキャンダルメンバーに対する運営の処置が、以前ほどではないが厳しくなった。うるさ型のメンバーを煙たがる傾向が強まった。乃木坂のような従順な「良い子」を量産して管理することが、AKB復活に必要なことだと見做しているように感じる。その象徴が16期生への措置である。

 研究生は劇場公演に正規メンバーのアンダーとして出演して場数を踏みことが通例となっている。AKBの何たるかを現場でメンバーと触れ合いながら吸収するわけである。ところが16期生は研究生公演を行うのみ、通常の公演には出演していない。それだけではない。仕事以外での先輩メンバーと16期生の交際が禁じられてもいる。16期生は他から隔離された状態で養育されており、劇場公演に熱心な村山彩希や岡田奈々と云った生真面目な先輩メンバーがほぼ独占的に16期生と接している。

 またAKB全体を応援する箱推しファンの激減が、今日のAKB不人気に繋がっているとの指摘を受けて、大人数の16期生を一括して売り出すことで16期推しのファンを獲得して人気再興へと繋げたい意向を運営は持っているようにも感じる。これらが16期生の隔離と優遇の根底に流れている要因であろう。

 このような流れに悉く逆行するのが件のドラフト2期生だ。ドラフト2期生は既に芸能人化したAKBの先輩メンバーたちに揉まれて成長している。加えて人数が少ないから、箱推しの形へと持ち込むのは不可能である。唯一、正規メンバーに昇格した樋渡結依がそこまで急伸しなかったことも、他のドラフト2期生の昇格を躊躇させる動機にはなったろう。メンバーの卒業が相次ぎ、現行チーム制による公演がままならなくなる中で研究生を昇格させることは、チーム再編待ったなしの機運を高めることにもなる。しかし運営はなお、乃木坂化へ向けてAKBをスリムにしたい意向を持っているようにも思われた。あおりを喰らったドラフト2期生はまるで同棲生活が安定から倦怠へと入りかけたカップルのような状態に取り残された。

 さて、そんな頃合でやってきた第3回ドラフト会議開催発表である。新たなドラフト生を募集するとなれば塩漬け状態のドラフト2期生の処遇を決着させる必要が生じる。9月27日、AKBカフェにて開催のドラフト2期生イヴェントに於いて、遂に残るドラフト2期生4人の正規メンバー昇格が発表されたのである。

 このタイミングでの発表は、昇格の理由が明確に生じたからだ。即ち、第3回ドラフト会議を開催するから、である。それはちょうど、妊娠発覚を機にだらだらとした関係に終止符を打って入籍に踏み切るカップルのようでもあった。いわば「できちゃった婚」ならぬ、「できちゃった昇格」である。状況的に追い込まれる中での決断だった。

 AKBカフェと云うハレの場にしては小規模すぎる会場での昇格発表に憤りの声も挙がっている。他のメンバーが立ち会い、祝福する場面のない完全隔離された空間でもあった。このスタイルが良しとされた背景としてはファンやメンバーに対する「説明責任」と云う問題を運営が認識していたからに他ならない。明快な昇格理由を運営が明らかにしたわけではないが、誰しも想像がつくわけである・・・ドラフト会議をまたやるからだね、と。そのための残務整理の一環なのだね、と。ドラフト会議開催告知前に正規メンバーへの昇格を発表した場合、なぜ今なのか説明することは困難である。さんざん引き延ばしてきたからには、その分きっかけとなる明快な事由が必要になる。しかしそんなものはなかなか現れないわけで、ずるずるといたずらに時の経過に依存するほかに有効な打開策が無い。第3回ドラフト会議開催発表の際に併せて昇格発表を行わなかったのは、メンバーが全員揃わなかったこと、他グループに配慮してのこともあるだろう。したがってAKBカフェでの発表がベターな選択となった。

 この度のドラフト2期生の昇格は、外圧による玉突きとして生じたものとなった。ここまでの不遇に耐えてきたのだから、運営に対する不満を過剰に持ち、投げやりになるような人間でも無かろうと云う安心感を抱いていることも透けて見える。AKBの乃木坂化計画を狂わせる存在ではないのだと見做された上での、歓喜の昇格でもあった。


  

AKB乃坂道 表紙
uploaded 2017.0930 by 山田系太楼どつとこむ
©山田系太楼 Yamada*K*taro